人気ハーバリストによる連載コラム

 

石田佳奈子のフランス便り

~ハーブと共に生きる~   vol.3


第3話:野生ラベンダーが精油になるまで


フランスでは7月になると色々なハーブがその収穫時期を迎えます。

この繁忙期中はどの仕事に優先順位をつけるかいつも私たち生産者の頭を悩ませます。

しかし植物たちは待ってくれません。ひたすら出来る事からやっていって、気がついたらもう夕方という毎日を送ります。この時期生産者は毎日倒れこむように床に着きます。

そしてこの時期、ルソーさん率いる私たちのチームが最も優先して行うのが野生ラベンダー収穫です。

7月の終わりから8月の初めにかけて約10日間に渡る壮大な作業。

 

私たちにとって1年の中で一番重要な大仕事です。この日が近づくと祭りの日が近づくように血が騒ぎ始めます。

 

作業は車に5日間過ごせるだけの食料やキャンプの道具積み込み、ラベンダーが咲く1300メートルの山の天辺まで登ってベースキャンプを作るところから始まります。

収穫の時使う私たちの道具はとってもシンプルで鎌とベットシーツのみです。

 

鎌は毎晩仕事が終わると研いで手入れをしておきます。ベットシーツは昔ながらのスタイルで体に巻きつけて、収穫したラベンダーを入れて行きます。こうすることによって両手が使えるのです。

 

私たちは一人1日約50キロから70キロのラベンダーを収穫します。

炎天下で歩く1日の距離は約10km

暑いので水分補給は1日に約2リットル。

ペパーミントの蒸留水を入れたお水を飲んで作業に臨みます。

熱中症などが危ないと感じた時などはそのお水を頭から被ったりして工夫します。

 

とにかく見渡す限りラベンダーが広がっていますが、群生しているところを探して効率良く採ることが私流のやり方です。

毎年参加するラベンダー収穫の熟練がそれぞれ「自己流」を持っており、それをお昼休憩や夜ご飯に語りあったり若い者に伝授したりします。

 

夜は星空が美しく、それに見とれながらあっと言う間に眠りに着きます。

 

ラベンダーがある程度溜まったら一度下山して蒸留場に持ち帰りここから蒸留チームと収穫チームに分かれます。

私はルソーさんと蒸留作業をするために蒸留所に残ります。

良質な精油と蒸留水を作るのに必要な原料はラベンダー、天然水、そして良質な蒸気です。

ここの蒸気は薪で温めた湧き水。

 

つまり収穫する場所に限らず、蒸留所の周りの環境(水)も良くなければ良いものは作れないと言うことです。

 

私たちは1シーズンにつき約2トンのワイルドラベンダーを手摘みで収穫します。

このように伝統的な収穫方法を取り入れている農家はフランスでも数えるほどしか残っていません。

理由はとても簡単です。栽培ラベンダーの方が効率良いからです。全て機械化、収穫も機械でやると随分手間が省けます。

しかしそういった農法で作られた精油は、野生ラベンダーの力強い精油とは別格。

 

野生ラベンダーに魅了された、いわゆる「変わり者」たちだけが野生ラベンダー収穫を地道に続け、その技法を次の世代へと受け継いで行くのです。